JR東日本では,信号設備メンテナンスにICTなどの先端技術を活用して,地上設備削減,より細かな設備状態の把握,現場検査や夜間作業の削減などを目的に,進めているDX(デジタルトランスフォーメーション)について,その取り組みを発表した.
1. ESII形電気転てつ機の一部検査のCBM化
ESII形電気転てつ機は,隣接する機器室にあるモニタ装置でデータ監視や故障予兆検知をしている.このデータをクラウドに蓄積して活用(CBM化)することで,現在年3回実施している現地検査を年1回に減らす.あわせて検査品質・生産性を向上させる.
2024(令和6)年度は全560台のうち23台でデータ解析を適宜実施し,2025(令和7)年度以降は対象箇所の拡大を目指す.
2. 近赤外線を利用した「特殊信号発光機視認性確認システム」
特殊信号発光機(略称:特発)は,JR東日本管内に26000ヵ所設置されており,踏切などの異常発生時,付近の列車を操縦する運転士に知らせるため,赤色灯を発光するもの.現在はこの特発の視認性を確認するために,夜間など列車走行のない時間帯に,現地で定期的な目視検査を実施している.この検査の省力化を目的として,近赤外線と画像処理技術を用いた「特発視認性確認システム(IR特発)」導入を進めている.
このシステムは,日中時間帯に走行する営業列車で映像を撮影し,その画像を解析することで,特発の視認性を自動判定するものである.一回の列車走行による映像撮影で撮影した全区間の検査が自動で可能となる.すでに地方線区を中心とした31線区で約6800ヵ所にIR特発を設置済みで,2024(令和6)年度から実用化される.
3. 軌道回路用信号ボンドのメンテナンス省力化
レール継ぎ目の側面に取り付けられている「軌道回路用信号ボンド」の取付状態を確認する「信号ボンドモニタリング」の運用を,2022(令和4)年4月から開始し,現在首都圏26線区に導入している.これは営業列車床下にカメラを搭載し,信号ボンドの取付状態を撮影した画像データをボンドモニタリング装置に取り込み,そのデータと過去に撮影した正常なボンド画像データとを比較して,取付状態の良否判定をしている.異常が疑われる画像はオペレータによる確認後,必要に応じて修繕を手配する.
2022(令和4)年度はこのシステムにより,即修繕が必要な信号ボンドの異常13件を発見しており,障害を未然に防止した実績もある.
4. GNSSおよび携帯無線通信網を活用した踏切制御システム導入
地方路線向けに,GPSなどの衛星を用いた位置測位システム「GNSS」を活用した,新しい踏切制御システムの開発を進めている.「GNSS」により,列車の位置を把握や列車と地上設備間の伝送装置として携帯無線通信網を活用することで,最小限の地上設備の踏切制御が可能となっている.
すでに2020(令和2)年9月から八高線において128回の走行試験を実施しており,高麗川—北藤岡間への踏切制御機能導入を目指す.同時に,社外への展開を見据えて,信号機などに応じた列車速度制御機能の開発・検証も進めている.
5. 鉄道信号システム故障時のAIによる復旧支援システム
2023(令和5)年3月には,鉄道信号システム故障時のAIによる復旧支援システムを開発し,首都圏線区の指令所に導入した.このシステムでは,指令員が調査結果を時系列に入力すると,AIが過去の故障対応記録から類似事象を自動的に抽出して,原因の推測と対策の提案を行なう.これにより,信号トラブルの中でも原因究明に時間を要する,軌道回路トラブルが発生した場合の早期復旧が可能となっている.
2024(令和6)年1月には第7回インフラメンテナンス大賞優秀賞を受賞している.
画像はすべてJR東日本提供