阪堺電気軌道では,2020(令和2)年6月30日(火),近畿運輸局長あてに軌道旅客運賃変更認可を申請したと発表した.
現在の運賃は,普通旅客運賃(大人)が堺市の支援策などにより全線210円の均一制で,定期旅客運賃は乗車距離により運賃が異なる(1ヵ月:7050円〜12360円).
申請内容は,普通旅客運賃(大人)は現行から40円高い250円(均一制)を上限とし,定期旅客運賃の上限は通勤定期1ヵ月で9660円,通学定期1ヵ月が5500円とし,均一制とする.また上記の上限運賃の認可後,届出を予定している運賃(実施運賃)については,普通旅客運賃(大人)が現行から20円高い230円(均一制)とし,定期旅客運賃の割引率は,通勤定期で30.0%,通学定期で60.1%となる.
運賃の変更は,2014(平成26)年4月の消費税率改定にともない,翌2015(平成27)年2月に実施したが,1995(平成7)年3月以降,本格的な運賃改定は見送られていた.しかし,交通手段の多様化や少子高齢化による就労人口の減少などの要因から,1998(平成10)年度に11048千人利用していた輸送人員は,2009(平成21)年度に7220千人まで落ち込み,赤字経営となっていた.そのため,関係各所と自立再生可能な事業構造に向けた全般的な見直しを行ない,堺市から10年間の支援(2010年度〜2019年度)を受けることで,安全性と利便性の向上や利用者拡大に向けた施策を実施した.
堺市からの支援により,2011(平成23)年1月に大阪市内と堺市内をまたがって利用する場合の普通運賃の値下げや堺市在住高齢者対象の割引を実施し,2013(平成25)年度から2015(平成27)年度にかけて,低床車両の1001形「堺トラム」を計3編成導入した.また,2014(平成26)年度にはICカードシステムを導入し,さらに2015(平成27)年の石津北停留場の新設や,2016(平成28)年の宿院・天王寺駅前・阿倍野の各停留場のバリアフリー化などを行ない,2018(平成30)年度の輸送人員は8202千人まで回復している.
しかし,今後も旅客サービス設備の改善や交通環境を整備するためには,車両・施設や安全性に対しての投資に加え,大阪府における最低賃金の大幅な上昇により,従業員の確保や外注工事費の高騰による負担の増加が見込まれることや,今後の収支見通しにおいて現在の認可上限運賃に変更しても収支改善を図ることが困難な状況にある
とし,定期運賃を含めた運賃制度の変更と旅客運賃の上限運賃変更申請に至った.
なお,現在検討中の主要プロジェクトとして,我孫子道の運行管理システム(簡易PTC化)と住吉連動装置の更新や,宿院交差点のブロック・軌道更新,南海本線の高架化工事にともなう阪堺線の移設が計画されている.