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鉄道総研,電車の新たな空転制御方法を開発

JR西日本 323系

公益財団法人鉄道総合技術研究所は,モータの電流情報を用いた電車の新たな空転制御方法を開発したと発表した.
 レールと車輪はともに金属のため滑りやすく,雨天時などでは車輪が滑って空回りする空転が発生しやすい.空転が発生すると,車両を加速させる力(摩擦力)が低下するほか,空転の検知が遅れると,摩擦力が大きく低下して列車が加速しにくくなり,空転が回復する際に,車両を加速させる力が急激に作用することがあるため,乗り心地が低下する.このため電車では,空転が始まるとモータの回転速度が大きくなるので,従来は,主にモータの回転速度の変化(回転加速度)によって空転を検知している.
 台車内の二つのモータを一台のインバータ装置で制御する一般的な1C2M方式の電車の場合,空転の検知には,二つのモータの平均回転加速度を用いており,前後の輪軸がともに空転となった段階で検知する.しかし,鉄道総研における最近の研究で,一つの台車内の輪軸では,進行方向の前方が後方よりも先に空転を始めることが多く,また,空転した輪軸のモータでは,加わる負荷の低下にともなって電流値が減少することがわかった.そのため,1C2M方式の電車の場合,空転の検知にモータの電流値の差を用いると,前方輪軸が空転を始める空転の初期段階で検知できる可能性を見出した.この電流値の差を用いた検知方法は,回転加速度を用いた検知よりも空転の兆候を把握しやすく,検知にかかる時間を短縮できる.これにより空転から早く回復できるようになった.
 また,開発した空転制御方法の効果を試験車両による走行試験で確認した結果,従来の空転制御方法と比較して,空転時に,車両を加速させる力が高く維持することができるため,空転時の平均加速度が5%以上向上したほか,空転回復時の摩擦力と駆動力の差が小さくなり,車両を加速させる力が急激に作用しないため,回復時の車体前後振動加速度が40%以上減少し,乗り心地が向上した.なお,開発した制御方法は,従来の検知方法も併用している.
 この新たな制御方法は,JR西日本と三菱電機の協力によりシステムとして実用化され,JR西日本323系電車に採用されている.

写真:JR西日本323系  編集部撮影  近畿車輛株式会社 本社にて  2016-6-24(取材協力:JR西日本・近畿車輛)

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