
写真:近鉄8A系 西大寺車庫にて 2024-8-10(取材協力:近畿日本鉄道)
近畿日本鉄道は,2025(令和7)年度「グッドデザイン賞」において,「新形一般車両8A系」,「大阪上本町駅・近鉄上本町バスターミナル」,「可動式ホーム柵[昇降ロープ式]ホーム柵(鶴橋駅2番線のりば)」の計3件が受賞したと発表した.

▲1両あたり2ヵ所に設置された「やさしば」
2024(令和6)年10月にデビューした8A系は,奈良・京都・橿原・天理線で運行を開始し,2025(令和7)年度までに21編成84両を導入している.
ベビーカーや大形荷物の利用客が気兼ねなく着席して過ごせるスペース「やさしば」を1両あたり2ヵ所設置したほか,混雑状況に応じてロングシートとクロスシートを切り換えることができる「L/Cシート」,車内防犯対策として防犯カメラの設置,従来車両と比較して消費電力の45%削減など,安全と環境に配慮した車両となっている.
審査員による評価では,「沿線の人口変化や,子育て世代,高齢者,インバウンドなどの新しい乗客のニーズ,利用シーンの変化に寄り添うべく,長い期間をかけて丁寧にデザインされたことや,地域の乗客や乗務員など,さまざまなユーザーの意見を取り入れるデザインプロセス,沿線の調査,地元アイデンティティを保つための外装やカラーリングが車両の完成度と,愛着を高めている」とした.
とくに,入口付近にベビーカーや大形荷物の利用客が,気兼ねなく利用できる座席「やさしば」や,週末になるとロングシートをクロスシートに変更できる機能など,一般車両でありながら,観光列車のような様相もあり,多様なユーザーの自由なモードに対応した,新しい鉄道と人々の関わり方を提示している点,女性乗務員の背丈の違いにも細かい配慮がされている点なども評価された.

▲大阪上本町駅・近鉄上本町バスターミナル 駅とバスターミナルをつなぐ連絡通路
大阪・関西万博のシャトルバス発着場決定にともない,バスターミナルのリニューアルと駅連絡通路の新設計画を行なった「大阪上本町駅・近鉄上本町バスターミナル」は,駅1階の3番線ホームを廃止し,2階バスターミナルへと続く動線として通路を整備した.
新設通路は,曲線を多用した柔らかいデザインとすることで旅に出る期待感と上質で落ち着いた空間を創出している.改札からエスカレータまでの床タイルは色を変えることでかつての線路跡を想起させ,壁面はガラス張りと曲面壁の異なるデザインとすることで通路の行き道と帰り道の表情に変化を与えている.
鉄道駅構内とバスターミナル側の境界線を撤去し,薄暗かった駅が大きく明るく広がったことや,万博シャトルバスへの発着場としてのリニューアルだが,上本町駅全体の再開発も発表されており,このバスターミナルから周辺地域の活性化につながる新しい展開へ期待する点が評価された.

▲可動式ホーム柵[昇降ロープ式]ホーム柵(鶴橋駅2番線のりば)
近畿日本鉄道で2例目のホームドアとして安全性と機能性を兼ね備えるだけでなく,駅空間の景観調和を追及したデザインを目指して開発された「可動式ホーム柵[昇降ロープ式]ホーム柵」は,2025(令和7)年3月30日(日)から鶴橋駅2番線のりばで運用を開始した.
柱や梁は突起のない柔らかな構造とし,昇降ロープは張力を調整し直線的に,また上下に帯を取り付け,ロープ全体を面として表現することによる安心感,必要最小限の注意喚起色とグレーを基調とした本体色とコントラストにより視認性を確保することで駅空間との調和を実現している.
さまざまな車両が乗り入れるホームでは,ロープ型のホーム柵が採用されているが,無骨な見栄えは,必ずしもよいとは言えなかったが,本製品は,ロープの設置とホームの美観整備を同時に行なうデザインとして評価された.
構造体となるアルミの柱に,天井にあった煩雑なケーブルを仕舞い込み,必要なサインの掲出所として設置することや,構造体とロープとの色合わせなど,機能面にプラスして,統一した配色,プラットフォームの構造体にも見える安定感のある造形によって,プラットフォームの風景,景観を変えることにも成功している点や,パブリックスペースのデザインソリューションとして秀逸なデザインである点も評価された.
一部画像は,近畿日本鉄道提供