公益財団法人鉄道総合技術研究所は,都市近郊の実路線での試験に向け,実用段階に近い新たな超電導き電ケーブルシステムを開発したと発表した.
これまでの超電導き電ケーブルシステムは,高温超電導材料で構成された線材を冷却し,電気抵抗が0Ωの超電導状態にして電気を流すシステムであった.これを実現するためには,約77K(-196℃)の液体窒素を冷媒とする冷却システムが必要となるが,鉄道総合技術研究所ではこれまで,高温超電導材料の鉄道への適用可能性の検証を目的とし,鉄道総研内の試験線などで走行試験を実施してきた.走行試験は,3日程度の期間で2〜3両の車両1編成を用いて実施されるため,市販のスターリング方式の冷凍機を適用した冷却機構を用い,サブクーラへの冷媒の補充や,専門技術者による冷却管理を実施して対応していた.だが,システムを実用化するためには,高性能で安定した冷却機構の開発が課題となっていた.
新システムの冷却機構は,ケーブル超電導部に熱絶縁性能の高い材料を使用してケーブル内部の温度を均一に保つとともに,端末部を熱の侵入を低減した構造とし,さらに,ケーブル専用に設計・製作したブレイトンサイクル方式の冷凍機を適用した.これにより,65K(-208℃)までケーブルを冷却し,65〜77Kの範囲で任意に温度を設定することができるようになった.従来は,超電導状態を保持できる上限の77Kに冷却していたため,何らかのトラブルにより冷凍機が停止すると超電導状態を保持できなくなっていた.一方,新システムでは,冷凍機が停止した場合でも,2〜3日は超電導状態を保持することができる.これは,今後,冷凍機を停止させて保守点検する際にも役立つほか,冷凍機の改良により,冷媒の補充が必要な冷却を補助するサブクーラが不要になった.またこれまでに,2週間の連続運転により,異常がないことを確認し,実用段階に近いシステムとなった.
また,新システムでは超電導線材の量を増やし,電流容量を408mの長さで8000A以上にすることが可能となった.この電気容量は,新システムの適用路線を,10両前後の車両が変電所間に同時に2〜3編成走行する都市近郊路線を想定した場合に対応する.今後は,本システムによる実路線での送電試験を計画している.
写真上:日野土木実験所に設置された新たな超電導き電ケーブルシステム
写真下:超電導き電ケーブルの内部構造(鉄道総研のニュースリリースから)