〜『鉄道ファン』1987年6月号から〜

拝啓 JRグループの社長さま

JR東日本 異軌間直通列車ー日本版タルゴー

1)開発コンセプト
上野から東北・上越新幹線を経由し,乗り換えなしで在来線に直通運転可能な列車を考えてみた.動力車はそれぞれの軌間ごとに専用車を設定する.直通運転用車両は,スペインのタルゴ車両と同様の地上設備により,短時間で軌間を変更する.新幹線内の動力車は新設計とし,牽引力を確保するためと,空気抵抗軽減のためプッシュプル方式を用い,下り方,上り方それぞれ専用の機関車を製作する.

JR東日本 異軌間直通列車ー日本版タルゴー

2)車両の構想
機関車の構成は,BーBーBの軸配置で全長20000mm,VVVF制御の大出力インダクションモータを1台車に1台搭載する.車両限界は,新幹線内の走行となるため,当然新幹線用の限界とするが,在来線に直通する車両との間は,断面の違いを空気の流れを乱さないように絞りこむ.前頭部は,新しいイメージのスラントノーズを構成する.直通車に対するサービス電源は機関車から供給するが,軌間変更用の地上設備を通過する間のバックアップ用として,直通車にも小形のSIV(静止形インバータ)を搭載する.在来線内は当面,余剰となっている機関車にサービス電源用のSIVを搭載するなどの改造を行なって流用し,編成の両数により単機または重連とする.将来は専用の機関車を開発したい.直通車両の車両限界は,当然在来線の限界により連接構造とし,動力は持たないが機関車と一体のシステムを組み,電気指令式のブレーキ方式の採用をはじめ,客車よりは電車の付随車に近い構成.車体は新幹線で初めてステンレスを使用する.基本編成は,グリーン車1両・ビュッフェ車1両を含む5両で,少ないスペースを有効に活用するため各部の構成を精査する.室内のサービスレベルは100系新幹線相当とするが,断面が違うため,座席配置は普通車が2人+2人,グリーン車が2人+1人の配置となる.ビュッフェはSNCFのバー・コラーユやDBのクイック・ピックのように,セルフサービスを導入した新しいスタイルにするとともに,暖かい弁当のシートサービスができる機能を持たせる.また,この車両に身障者用の設備を持たせる.クーラー等の機器類は床下に搭載して重心を下げ走行安定性を高める.必要に応じて違う行先の編成を2~3本併結して,中間の駅で切離すことも可能.新幹線内の最高速度は200km/h程度でも,乗換時間が短縮出来るため,現在よりも到達時間は十分短縮できる.設定する区間は,上野ー仙台ー山形,上野ー盛岡ー秋田,上野ー盛岡ー青森ー函館,上野ー新潟ー酒田などが可能.軌間を変更する機構は,新しい鉄道総合技術研究所で開発していただこう.

異軌間直通列車 編成図

3)車両のデザイン
①エクステリアデザイン
今回イラストでお目にかけるのは,新幹線内を走る異軌間直通列車,上野発・田沢湖線経由秋田行きの列車である.新幹線内であるので,牽引しているのは新幹線電気機関車であり,スーパーホワイトのボディにグリーンのラインとJRのレタリングが鮮やかである.世界の高速列車のスタイリングは,「鉄道ファン」誌上でも見られるとおり,空力性能の向上という目標は同じであるにもかかわらず,丸いイメージのICE,角張ったイメージのTGV,するどいイメージの我らが100系新幹線電車などまちまちである.ここに提案するスタイリングは,そういったものとまた違った新しいフォルムである.電気機関車であるにもかかわらず,ウェッジシェイプの,長いボンネットを与えることができたのは,新幹線の大きな車両限界の賜物である.運転室の位置などはなるべく100系のそれに合わせて構成した.この部分のサイドのガラス面はそのまま後方へ流し,機器室の明かり窓としている.牽引される客車の方は,ステンレスの車体であり,基本的には211系などと変わりはないが,連接タイプであることや,高速時の空気の巻き込みを避けるためのスカートなどの装備を加えたものとした.
②インテリアデザイン
車両の構想にあるように,インテリアデザイン,特に客室部分については,100系新幹線に相当したものとする.特徴となるのはセルフサービスのビュッフェである.欧米にはさまざまな種類のサンドイッチがあるように,日本には長い歴史を誇る弁当がある.車販の弁当を見直して,暖かいおいしい弁当をそれぞれの客席で味わっていただきたい.したがってこの部分には椅子は設けず,ちょっとした気分転換に一杯飲むためのテーブルのみを置くこととした.

異軌間直通列車 ビュッフェ
JR東日本 異軌間直通列車 平面図