公益財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は,通過する鉄道車両の床下部を自動で撮影・診断し,外観上の異常の有無を検査する「車両床下外観自動検査システム」を開発した.
このシステムは,鉄道車両の安全運行に欠かせない列車検査(仕業検査)において,検査員が車両の近くまで赴き目視で確認していた作業を自動化することで,人手を要する検査の省力化・省人化を目的としている.
開発された本システムは,屋外で撮影した画像から,車両床下機器の異常を誤検知1%未満の精度で診断可能である.システムの主要構成要素である「車両外観撮影装置」は,ラインスキャンカメラ,高輝度ライン照明,レーザードップラー速度計,車両検知センサなどで構成されている(図1).この装置により,屋外で昼夜,晴雨を問わず,通過する車両の床下部の高精細な画像を撮影・保存できる.
診断アルゴリズムにはAIを活用し,検査箇所への日差しや雨濡れなどの外乱に強い学習手法を開発した.また,診断処理や検査結果の管理に必要となる車両番号は,撮影された車体の表記から認識するため,車両番号を認識するためのRFタグなどの搭載は不要である.
本システムは,車両基地の入り口に設置された車両外観撮影装置(図2)で,車両が基地に入る際に床下部の側面を撮影する仕組みである.撮影時には,レーザードップラー速度計で車両の走行速度を計測しながらラインスキャンカメラで撮影することで,連続した画像が得られる(図3).
撮影された画像から認識した車両番号にもとづき,車両ごとに用意されたテンプレート画像や,車両形式ごとのAI学習モデルを用いたアルゴリズムで外観状態を診断する(図4).
車両基地内を走行する車両を1年9ヵ月にわたって撮影して検証した結果,15種類の模擬異常に対し,異常を正常と判定した「見逃し」が0%かつ正常を異常と判定した「誤検知」が1%未満の精度で診断できることを確認した.これらの模擬異常には,「部品外れ」(配線ほつれ・外れ,ボルト・ナット落失など),「変形・損傷」(排障器曲がり),「操作部反位」(機器箱蓋鎖錠開きなど),「異物」(枝,ビニール袋など),「そのほか」(ダンパー油漏れ)が含まれる.この成果により,列車検査における床下目視箇所の約7割を本システムによる自動検査に置き換えることが期待されている.
本システムを構成する撮影技術を採用した車両外観撮影装置は,今後,JR九州に導入される予定である.
画像はすべて公益財団法人鉄道総合技術研究所ニュースリリースから












