鉄道ファン2025年11月号(通巻775号)
『鉄道ファン』2025年11月号
2025年9月20日発売
定価1300円(税込)

鉄道総研,超電導き電システムで営業列車に電力を供給
〜伊豆箱根鉄道での運用検証と,JR東日本での実証試験結果を発表〜

伊豆箱根鉄道3000系

写真:伊豆箱根鉄道3000系  田中 勇司撮影

公益財団法人 鉄道総合技術研究所(鉄道総研)では,伊豆箱根鉄道とJR東日本の協力のもと行なってきた「超電導き電システム」の営業運転での各種実証試験について,双方ともに安定した超電導状態で送電ができることを確認したと発表した.

鉄道総研,超電導き電システムで営業列車に電力を供給

 伊豆箱根鉄道での運用検証については,駿豆線大仁駅構内に超電導き電システム(図1)を設置し,2024(令和6)年3月から稼働をはじめ,現在も駿豆線の営業列車に電力を供給している.

鉄道総研,超電導き電システムで営業列車に電力を供給

 1年以上にわたり安定した稼働状況が得られ,現時点で約4万本の営業列車に対し,電力を供給している.
 稼働時には,季節によらず1日におけるケーブル部内部での安定した冷却を維持(図2)することで超電導状態を良好に保持しながら,いずれの日も1日の中で電流の変化はほぼ同一であり始発から終電までの営業列車の負荷に対応した送電が行なわれたことが確認できた(図3).また,1年間にわたる耐久性についても検証できた.

鉄道総研,超電導き電システムで営業列車に電力を供給

 JR東日本での実証試験については,中央本線に隣接する鉄道総研日野土木実験所に「超電導き電システム」を設置し(図4),2025(令和7)年3月から4月までの間,下り線に接続して始発から終電までの営業列車への電力供給を行なった.

鉄道総研,超電導き電システムで営業列車に電力を供給

 中央本線の営業列車への電力供給として,これまでに,都市圏鉄道にみられる複数列車の同時力行の負荷として最大4500Aの電流の供給実績が得られた(図5).また,減速(回生)時には最大2889Aの回生電流が列車からき電線に向かって流れるなど(図6),電流値や電流の向きが頻繁に変動する稠密線区での大きな電力供給時において,超電導ケーブルの両端での電圧の差はほぼ生じず,システムが安定に稼働し,必要な電力を供給したデータが得られた.
 これらの結果から,超電導き電システムは都市圏鉄道の稠密線区にも電力を供給できることを実証した.

JR東日本E353系

写真:JR東日本E353系  編集部撮影  2017-11-22(取材協力:JR東日本)

 本システムの活用により変電所の集約による設備管理の省力化などの効果を発揮するためには,さらに長い送電距離が必要となる.ケーブルの長尺化を進めていくためのケーブル間の接続技術の構築を進めるとともに,性能向上を目指した超電導材料自体の研究や冷却性能向上,設置後の保守管理手法の確立,経済性の向上などの課題に取り組み,社会実装に向けた研究開発を進めていく.
 本研究の一部は,国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施した.また「超電導き電システム」の研究開発は,これまで国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)(JPMJSV0921)」・「未来社会創造事業(JPMJMI17A2)」,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託・助成事業を受けて実施している.

一部画像はJR東日本提供

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