
写真:JR東日本E5系量産車 編集部撮影 新幹線総合車両センターにて 2010-12-14 (取材協力:JR東日本)
JR東日本は,2025年度から,新幹線のトンネル検査に「ひび割れ自動抽出技術」と「二時期比較技術」を導入すると発表した.これらの技術を組み合わせたトンネル検査のDX(デジタルトランスフォーメーション)は新幹線では日本初であり,これにより新幹線トンネル検査の精度の向上,夜間作業の約2割削減を実現する.

▲覆工表面画像・ひび割れ自動抽出・二時期比較
鉄道土木構造物は,長年の列車通過や気象・環境などの影響により状態が変化していくため,定期的な検査により,列車の安全・安定輸送に影響がないことを確認している.検査では,前回から「変化した箇所」を見逃さないことが重要であり,この「変化した箇所」を精度高く抽出し,検査の効率化に資する手法の開発に取り組んできた.
トンネルでは,覆工(ふっこう)コンクリートの表面(覆工表面)に現れるひび割れなどに着目して検査を行なっているため,今回,新幹線トンネル覆工表面画像に最適化した「ひび割れを自動抽出する技術」と,「二時期のひび割れを比較する技術」を新しく開発した.これらは,人が実施していたひび割れの抽出や二時期比較による変化箇所・変化量の抽出を自動化するもので,これらの技術を組み合わせた新幹線トンネル検査のDXを日本で初めて実現した.

▲新幹線トンネル検査のDX概要
JR東日本の新幹線トンネル検査においては,覆工表面におけるひび割れや漏水などの「変状」を図示した「変状展開図」を活用している.上記2つの新技術を適用した新しい「変状展開図」を用いた検査には,「ひび割れの見落としリスクの低減」,「ひび割れ進展箇所の明確化」,「夜間作業の省力化」の3つの特徴がある.
「ひび割れの見落としリスクの低減」では,従来,変状展開図は人がひび割れを抽出し作成していたが,AI画像解析により自動的に,精度高くひび割れを抽出できる.「ひび割れ進展箇所の明確化」では,二時期のひび割れを自動で比較することで,新規のひび割れやひび割れ進展箇所を確実かつ定量的に抽出し,変状展開図を作成できる.「夜間作業の省力化」は,新しい変状展開図を日中にあらかじめ確認し,ひび割れに進展があり現地確認が必要な箇所を絞り込むことで,夜間の作業時間を2割削減できるとしている.
なお,「ひび割れを自動抽出する技術」については,富士フイルムのAI画像解析技術を基盤として,新幹線トンネルのひび割れの特徴を機械学習し,精度高く自動的にひび割れを抽出するよう開発したAIモデルで,JR東日本研究開発センター,富士フイルムが開発した.また「二時期のひび割れを比較する技術(特許出願中)」はJR東日本研究開発センターが開発し,ひび割れを二時期で比較し,変化箇所・変化量を定量的に自動抽出するよう開発したツールとなっている.

▲新幹線トンネル検査DXのステップ
今後は新幹線トンネルを対象として,2025(令和7)年度からひび割れ自動抽出技術を活用した変状展開図や,二時期比較技術を活用した検査を導入していく.
覆工表面画像には路盤が含まれていないため,今後,路盤も含めたトンネル全景画像を取得する装置を開発する.これにより,覆工から路盤まで画像で確認・検査が可能な仕組みを整備していく.
さらなる画像データの活用やAI画像解析の技術開発に取り組み,検査の効率化・DXを進める.
一部画像はJR東日本提供