東芝インフラシステムズは,線路内に設備を追加せず,「自動化レベルGOA2.5」に対応する自動運転システムを開発したと発表した.
開発は長野電鉄と共同で行ない,2023(令和5)年8月から2024(令和6)年2月にかけて,長野電鉄長野線の一部区間(都市部)において,本自動運転システムの実証試験を実施し,基本動作検証を完了した.
東芝インフラシステムズでは,2021(令和3)年度から長野電鉄と鉄道の運転免許(動力車操縦者運転免許)を持たない係員(GOA2.5係員)が先頭車両に乗務する「自動化レベルGOA2.5」に対応する自動運転システムの開発を進めてきた.引き続き,長野電鉄での自動運転の本格的な運用に向けた開発に取り組むとともに,地方鉄道・ローカル線向け自動運転システムの開発を進め,「自動化レベルGOA2.5」に適合するシステムとして実用化を目指す.
自動運転を実現するためには,車両の走行位置を正確に把握する必要があり,一般的には線路内に地上子を追加で設置して正確な位置を把握する必要がある.地上子の設置・維持管理に係るコストへの懸念があることから,地上子の追加設置を必要としない自動運転システムを開発するに至った.この自動運転システムは,車両に設置した位置計測装置(GNSS:汎地球測位航法衛星システム・IMU:慣性計測装置を搭載),前方検知用ステレオカメラ,レーザー照射で離れた物体までの距離情報を3D画像として得る「LiDAR」,画像処理,運転支援装置で構成されている(図1).
画像処理と運転支援装置はGNSSやIMU,速度計などにより自車位置を高精度に測定・推定し,その位置情報を用いて,線路地図データベースと照合し,加減速制御や停車制御を行なう(図2).
本実証試験の走行試験では,自動運転モード出発スイッチにより走行を開始し,位置や速度の情報をもとに,運転支援装置で加減速制御と停車駅での停車制御を実施した(図3・図4参照).また,前方検知用ステレオカメラで模擬支障物を検知してGOA2.5係員を模擬した運転士に通知し,手動で停車する試験を実施した.
支障物検知について,東芝インフラシステムズの前方支障物検知システムでは,ステレオカメラにより線路上に支障物(線路内の障害物)があるとGOA2.5係員に音や光でブレーキ操作を促す機能が付いている.実証試験では昼間・夜間ともに200m先の支障物を検知可能であることが確認された(図5参照).
さらに,搭載したカメラによる支障物検知性能を曲線区間においても確保するため,鉄道車両として初となる列車位置連動の視界確保対応のカーブ用補助灯をコイト電工と共同開発した.これにより,夜間におけるカーブとその先の支障物検知の性能向上を図っている.
本実証試験では,カメラでの撮影が困難な逆光や対向照明などの環境条件のもとで,支障物検知に課題があることが確認された.そのため,同様の条件下で300m先の支障物を安定して検知できるよう,実証試験用のカメラにLiDARを追加した前方検知システムを試作して検証を行なった.
検証にあたり,東芝の研究開発センターで開発が進められている80点並列測距が可能な「長距離高解像測距技術」を搭載した試作LiDARを列車前方に仮設して,走行列車から300m先の物体の測距ができることを確認した.
東芝インフラシステムズは,引き続き鉄道車両用の機器やシステムの開発を進め,今後はステレオカメラの画像情報やLiDARの測距データを用いて,300m先の支障物検知を実現するとしている.また,地形や天候の影響を考慮し列車位置に応じた最適なセンサを自動的に選択する技術を開発する.各装置を設置性に優れた最適な装置として開発を進め,自動運転の本格的な運用に向けて幅広い列車に適用可能なシステム開発に取り組む.
自動運転システムとしては将来的に,「自動化レベルGOA3」以上の自動運転への対応も目指すなど,安全性と利便性の追求に加え,個々の鉄道事業者のコンセプトに沿ったソリューションを提供する.なお,本実証・技術開発は国土交通省の「鉄道技術開発費補助金」を活用している.
画像はすべて東芝インフラシステムズ ニュースリリースから