東京地下鉄(東京メトロ)は,2019(平成31)年2月7日(木)未明,銀座線渋谷駅で行なわれている工事の様子を報道陣に公開した.
銀座線渋谷駅は,1938(昭和13)年の開業以来,大きな改修は行なわれていなかったが,安全面やサービス面での課題があり,その改善のため,渋谷駅街区基盤整備と連携して,2009(平成21)年1月から移設工事が行なわれている.
この工事は,現在の位置から東側へ約130m移動し,明治通りの上に島式ホームを設置するもの.これにより,ホーム幅の拡大,副都心線などとの乗換えの利便性向上が図られる.
ホームを覆う屋根の形状については,当初,門形ラーメン構造という四角形の構造となる予定であったが,地上から見た際の圧迫感を減らすためにアーチ形が考案された.一方で,この銀座線渋谷駅の上には,スカイデッキが設置されることとなっており,スカイデッキを支持しやすい構造とする必要があった.そのため,単純なアーチではなく,頂部を削ぎ落としたM形のアーチ状とすることで,デザインと構造上の強度の課題をクリアした.
M形のアーチには,下部にガラスパネルが設けられており,ホームからは渋谷の街を,街からはホームに停車する電車の姿を見ることができるようになっている.肩部に設置されるアルミパネルには隙間が設けられ,風が通るように配慮されている.上部に設けられたスカイデッキの床は,駅の天井を兼ねる構造となっていて,その両脇には光を通すトップライトが設置されている.
今回の工事では,地上にバスロータリーなどがあることから,作業用のクレーンを設置できるスペースに限りがあるため,クレーンを移動しながら屋根部材を構築する方法ではなく,スライド工法が採用された.スライド工法とは,作業構台上で鉄骨を組み立て,組み立てられた鉄骨をレールなどにより水平方向に移動,空いた作業構台上で後方の鉄骨を組み立てて接続,完了後に再度水平方向に移動していく作業を繰り返し,構造物を構築するもので,体育館の屋根設置などで用いられることが多い.
屋根の組立て作業を行なう構台は明治通りから高さ約11m,銀座線の軌道からは5mの位置に,30m×14mの広さのものが設置されている.この作業構台に部材を搬入するため,下部構台が銀座線に隣接する明治通り上空に設けられていて,それぞれにクレーンが据え付けられている.構台の設置は2018(平成30)年8月から9月にかけて行なわれ,完成後,屋根の工事に着手した.
屋根を支えるM字形の鉄骨は,全部で45本が2.5m間隔で全長110mにわたって設置される.鉄骨は,3分割された状態で作業構台に搬入され,夜間に組立てを行ない,組立てが終わった鉄骨にアルミパネルやガラスなどを取り付ける作業は昼間に実施されている. 組立作業は,表参道側の屋根から始まり,2018(平成30)年11月に1回目のスライドが行なわれ,東側へ20mスライドして取り付け位置へ移動した.その後,現在の渋谷駅側の屋根の構築にうつり,2019年1月に西側へ15mスライドする作業が行なわれていた. 今回の作業は,新たに組立てが終わったものも含めて,9スパン分に当たる長さ22.5mの屋根を,7.5m西側に移動するもの.移動する屋根は約290tあり,毎分15~20cmというゆっくりとした速度でおよそ40分かけて移動が行なわれた.
今後,6回のスライド作業が予定されており,最後のスライド作業は2019(平成31)年4月下旬に行なわれる.その際にスライドする屋根の重量は800tになるという.また,現在の屋根はスライド作業を行なうために,本来の設置高さよりも高い位置で仮の支柱によって支えられている状態であり,すべてのスライド作業が終わったあとは,設置位置までジャッキを使って約30cm下げる工事があり,長い屋根を均等にジャッキダウンするという難易度が高いものとなる.
新ホームの供用開始は2019年度の予定で,今後も,屋根の工事と並行して,新ホームの構築,軌道を移動する作業などが進められる予定.
特記以外の写真はすべて百々貴俊撮影(取材協力:東京メトロ)