公益財団法人鉄道総合技術研究所は,電気抵抗削減による電圧降下の抑制を目的に開発を進めていた「超電導き電システム」について,JR東日本の協力のもと,実際に中央本線の,き電系統にシステムを接続し,送電試験を国内外で初めて実施したと発表した.
送電試験は,408mの超電導き電システムを日野土木実験所に設置し,液体窒素を冷媒とする冷却機構により,超電導状態を保持した後,中央本線の日野変電所から豊田方面へ延びる,き電線に接続し,終電後に豊田車両センターへの送電を実施.車両センターに留置したE233系電車(10両)10編成に対して,全車両の空調,照明などのために電流を流した.その結果,超電導き電システム接続時にシステム両端(起点側と終点側)の電圧はほぼ一致し,既設き電線に通電した時に測定された9.41Vの電圧降下が0.02V以下まで抑制されていることを国内外で初めて確認.超電導き電システムで送電することにより,この408mの区間で,送電線での電力損失量は約7kW減少した.
通常は,変電所から車両へ電気を送り届ける場合,き電線の電気抵抗によって電気エネルギーが失われるため,車両の受ける電圧が低下しないように変電所を密に配置する必要が生じる.また,車両がブレーキをかける時にモータが回転する力(運動エネルギー)を電気エネルギーに変換し,その電気をき電線に戻して近くを走行する電車へ送ることでエネルギーを有効活用しているが,対象となる電車までの距離が長い場合には,き電線の電気抵抗が,き電距離に比例して増加するため,エネルギーを効率的に活用することができないなどの問題が生じている.
超電導き電システムでは電気抵抗がほとんど無い状態で送電できるため,これらの問題を解決する効果が期待されている.今後は,実路線において試験列車を用いた走行試験などの実施により,その効果を確認するとともに,現状408mの超電導き電システムを長くすることや,き電ケーブル内の超電導状態を維持するための冷却性能を向上するなど,実用化に向けた課題への取組が進められる.
図:試験時の送電設備と超電導き電ケーブルへの電流の流れ(鉄道総研のニュースリリースから)