
写真:JR西日本273系 編集部撮影 近畿車輛にて 2023-10-17(取材協力:JR西日本・近畿車輛)
鉄道友の会は,JR西日本273系を2025年のブルーリボン賞に,近畿日本鉄道8A系と福岡市交通局4000系を2025年のローレル賞に選定したと発表した.
JR西日本273系は,特急“やくも”として経年40年を超えた381系の後継として開発された.デザイナーとJR西日本社員を交えたワークショップでデザインを構築し,既存の特急形車両とは異なる独自性が特徴となっている.
外装は「沿線の自然・景観・文化・歴史を尊び,お客様と交感する色」でオリジナル色の「やくもブロンズ」に「モダンに八雲立つ,伝統を継承」するシンボルマークを配置している.内装は「山陰の我が家のようにくつろげる,温もりのある車内」のため,グリーン車は積石亀甲模様で暖色系の,普通車は麻の葉模様で寒色系の座席とし,木目調の壁に間接照明を採用している.さらに,普通車の座席間隔は新幹線と同じ1040mmとし,新たに2・4名用セミコンパートメントやフリースペースを設け,車椅子スペースは最新の移動円滑化基準に対応している.
振子制御装置は,鉄道総研,川崎車両と新たに開発したものが採用されている.線路形状を登録したマップデータと,走行速度やジャイロセンサの測定値から高精度の位置認識を行ない,応答性を向上させた車体傾斜用アクチュエータとともに,線路形状にあわせた最適な傾斜制御で乗り心地の向上が図られている.このほか,脱線などを検知する車両異常挙動検知システムなどにより,安全性と信頼性を確保している.
安全性と信頼性が確保された先進の機器構成を基本に,地域の特性を踏まえた独自デザインが高く評価されており,会員からも候補車両のほかの形式を大きく上回る支持を得たことから選ばれた.

写真:近鉄8A系 編集部撮影 西大寺車庫にて 2024-8-10(取材協力:近畿日本鉄道)
近畿日本鉄道8A系は,同社にとって24年ぶりとなる新系列一般形車両で,1960~70年代に製造された一般形車両の更新を目的に,2024(令和6)年10月から運転を開始した.まずは奈良線,京都線用として4両編成で登場し,今後,大阪線・名古屋線・南大阪線などへの展開も予定されている.車両形式は新たに5桁の付番体系を制定し,最上位の桁がおもに運用線区,次の「A」が車両シリーズを表している.
客室は,ドア間にL/Cシートを装備しているが,ロング・クロス各モードをドア間のブロックごとに設定を可能とし,混雑状況に応じた柔軟な運用が可能.また,各車の中央ドア脇の2ヵ所には,縦横両方向に座ることが可能な座席を備えたスペース「やさしば」を設け,ベビーカーや大形荷物など多様なニーズに対応している.
制御装置はハイブリッドSiC素子によるインバータ制御,ブレーキ装置は抑速・回生付き電気指令式を採用している.さらに,読替装置とブレーキ管の引通しによって,さまざまな制御方式・ブレーキ方式の在来車との柔軟な併結運用を可能とした.
8A系は会員による投票において支持率が高く,また,近鉄の次世代を担う一般形車両として,極めて高い運用の汎用性,柔軟性と高レベルな客室サービスを実現しつつ,新たな標準化を目指した車両として高く評価された.

写真:福岡市交通局4000系 編集部撮影 姪浜車両基地にて 2024-10-23(取材協力:福岡市交通局)
福岡市交通局4000系は,空港線・箱崎線の1000N系置換え用として登場した.設計コンセプトを「一人ひとりにやさしい移動空間」とし,それを実現するための設計ポイントを,「質の高いサービス」,「静かさ」,「安全・安心の確保」,「省エネ・省メンテナンス」としている.
車体はアルミダブルスキン構体とし,座席幅をひとりあたり480mmまで拡大,手すりやつり手の増加,目線近くまで下げた荷棚など,快適で使いやすい車内空間としている.
各号車に優先スペース(車いす・ベビーカー用)を設け,優先席は各号車端部に配置し,一部の黄色い優先席は座面の高い,立ち座りしやすい座席が採用されている.6号車前位に設けたフリースペースは,海側眺望を楽しめるよう大窓とし,両端に1人掛け腰掛を設け,山側は空港利用などの乗客のため,荷物置場を備えた2人掛け腰掛2組を設置している.これらのエリアは,床面や壁にピクトグラムを採用し,利用者に判りやすい案内を行なう.
機器類は最新技術を積極的に採用し,特に主電動機には永久磁石不要な同期リラクタンスモータを世界初採用することで,従来車と比較して40%の省エネ化が図られている.車両統合管理装置は各車両の制御や3画面式の運転台表示のほか,地上システムへの情報伝送機能により,乗務員支援やダウンタイムの短縮,メンテナンスの効率化に活用されている.
各ドア上には,2画面一体の案内表示機能を備えた3画面の表示器を搭載する.車内の安全性向上のため,表示器の一部には車内カメラを設置し,常時映像が記録される.映像は非常通報操作などに連動し,運転台への自動表示,運輸指令で確認できる.
シンプルな機能美の中に,新たなデザインや技術をバランスよく搭載し,乗客の快適性に最大限配慮した次世代の地下鉄車両である点が高く評価された.
写真はすべてイメージです.
※一部内容を追記しました(5月22日).