東京メトロと公益財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研),日立製作所,三菱電機,NTTコミュニケーションズは共同で,第五世代移動通信設備(5G)を活用し,地下のトンネル内や地上の線路内などに設置された地上設備と列車間での5G通信を実現するための実証試験を開始すると発表した.5Gを活用した列車運行システムの実証試験は国内で初の取組となる.
実証試験は2024(令和6)年8月から2025(令和7)年3月までの予定で,丸ノ内線の新大塚—後楽園間で実施する(図1).
実証試験では,パブリック(公衆網)/ローカル(自営網)5Gを用い,欧州を中心に規格の検討がされている次世代の鉄道向け無線通信基盤である「FRMCS」を参照した鉄道用通信基盤のプロトタイプを東京メトロのフィールド内に構築し,電波環境の測定などを行なう.また,構築した鉄道用通信基盤のプロトタイプを用いて,列車運行システムである「CBTCシステム」や各種鉄道システムを想定した5G通信の実用性に関する試験を実施する(図2).
実験により,専用設備を必要としないパブリック5Gと専用設備を必要とするローカル5Gの両環境を検証し,5G通信の活用による設備投資の低減やメンテナンスなどに係る鉄道運営の効率化を目指す.最新技術による効率化・省力化と,安全性・安定性の維持・向上の両立を実現するための通信基盤として,重要な鉄道システムへの活用を客観的に評価し,適用範囲を見える化する.
5Gを活用した鉄道用通信基盤の先行事例として,欧州諸国を中心にFRMCSプラットフォームの仕様について検討されているが,今回は同プラットフォームとの将来的な互換性も考慮したプロトタイプシステムによる実証試験を行なうことで,欧州とは背景や要求が異なる国内の鉄道事業において共通利用できる鉄道用通信基盤の仕様や国際標準化への対応を目指すほか,本実証実験で試作した鉄道用通信基盤の仕様案を公開し,標準化を目指す.
実験後は,柔軟性の高い鉄道用通信システムとして,「CBTC」を始めとする高度な列車運行システムにおける地上と列車間のデータ伝送や,「CBM」などにおける各種センシング技術から得た情報の分析基盤への伝送に活用することで,事故未然防止による安全性のさらなる向上や,列車運行における安定性の維持・向上,保全業務の生産性向上や設備投資の低減が見込まれている.
また,列車内および地上のカメラ映像を相互かつリアルタイムに伝送する鉄道用通信システムとして活用することで,列車運行や乗客の安全性の向上のほか,設備投資の低減が見込まれている.
一部画像は東京メトロ提供