JR東日本は,公益財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)の研究成果にもとづき,地震検知後に地震規模を推定するプロセスを改良し,新幹線をこれまでよりも早く緊急停止させることを可能にしたと発表した.
「新幹線早期地震検知システム」は,各地震計で観測された地震動にもとづき,地震計から変電所へ送電を停止させ,新幹線を緊急停止するもの(図-1).
このシステムでは,観測される初期微動(P波)と主要動(S波)をそれぞれ用いることで,緊急停止の早期化と多重化を図っている.また,新幹線開業以来,地震計の増設や気象庁の緊急地震速報,国立研究開発法人防災科学技術研究所の海底地震計といった社外地震情報の活用など,さまざまな改良を重ねてきた(図-2・参考).
S波検知では,S波の振幅から列車を緊急停止させる仕組みとしているが,S波よりも早く伝播するP波による検知方法は,観測したP波から「震央距離」,「震央方位」,「地震規模(マグニチュード)」といった地震諸元を推定し,推定したマグニチュードに応じた緊急停止範囲の新幹線をS波到達前に緊急停止させる仕組みとしている(図-3).
マグニチュードの推定には,鉄道総研の研究成果にもとづく推定式を用いている.また,この推定式は,過去の地震で得られたP波の振幅,震央距離などとその際のマグニチュードから,統計的に求めている.
マグニチュードはP波の振幅の大きさに比例することが知られているが,P波全体でもその振幅は時々刻々と変化するために,1秒ごとにマグニチュードを推定している.P波の振幅は一般的に時間とともに大きくなるが,これまで推定式の係数は時間に関係なく一定としていた.今回,推定式の係数を1秒ごとの時間とともに変化させることで,P波検知1秒後から4秒後の推定精度が今までよりも改善し,実際のマグニチュードにより近い値を,より早く推定することが可能となった(図-4).
2022(令和4)年3月16日(水)に発生した「福島県沖地震」を受けて今後の地震対策を検討する中で,過去3年間のP波検知により緊急停止した13地震において検証した結果,P波検知から送電停止までに要する時間が現行式の平均3.9秒から改良式では1.3秒と,平均2.6秒短縮できることが判明した(図-5).一例として,2022(令和4)年3月16日(水)に発生した「福島県沖地震」では,3.1秒の時間短縮となる結果を得た.
これらの結果から,すべての新幹線地震計(計135台)を改修するとしており,2024(令和6)年3月からの使用開始を予定している.
特記以外の画像はJR東日本提供