〜『鉄道ファン』1987年6月号から〜

拝啓 JRグループの社長さま

JR九州 フルムーン・スペシャル

1)開発コンセプト
温暖な気候と豊富な海山の幸に恵まれ,根強い人気のある九州を訪れるフルムーナーの二人のために仕立てられた超豪華な列車,ゆっくりと風景を楽しみながらもプライバシーを重視するため,二人用個室の構成が基本だが,美しい九州の自然を心ゆくまで楽しむために,日本初のドームカーを導入し,両端は展望車とする.温泉や観光地の多い九州であること,それぞれの距離が,あまり離れていないことから,列車内での宿泊は考えず,あくまで昼間の観光(移動しながらの)が主体となる.一般的なルートは,新幹線とも航空機とも接続の良い博多を始発駅とし,長崎・熊本・別府・宮崎・鹿児島と回り,帰路は鹿児島から航空機でも,博多まで戻ってJR線を乗り継ぎでもよいだろう.今年の秋から,航空会社と提携した新しいフルムーンバスも用意してはいかがであろうか.フルムーナーのみならず.ナイスミディや,最近見直されつつある九州へのハネムーンにも大いに活用できる.

JR九州 フルムーン・スペシャル

2)車両の構成
編成は6両の固定編成で,2両目と5両めに注目のドームカーを配置する.これは,電気機関車のパンタグラフからの汚れを避けることと,見晴らしの良さをねらったもの.ドームカーの階下には小さなバーを置き,ドームカー内のサービスと各個室へのルームサービスを行なう.ドームカーからの見晴らしを良くするために,他の車両は極力屋根高さを抑える.またクーラーは床下に置き,あわせて換気機能を持たせて屋根上からすべての機器を排除する.そして全車の断面は,ドームカーのガラスのカーブに合わせて,上に向かって絞り込んだ形とする.中間の4・5号車と1・6号車の半分は定員2名のコンパートメントとする.この配置は,中央に通路を設け,両側に個室を振り分けて配置する.通路との仕切りはすべてガラス張りとし,プライバシーを守るとともに解放感のあるものとする.1・6号車の展望室は,風景を楽しむドームカーとは異なり,ピアノのBGMで,チェスやカードも楽しめる落ち着いた構成とする.
①オブザベーション(1・6号車)
個室は3・4号車と同じ構成とする.展望室は,一角に自動演奏が可能なアップライトピアノを置き,ゲーム用のテーブルと,談話室の雰囲気のソファを配置する.一人,専属のボーイを置き,ドームカーからのドリンクサービスを行なう.
②ドームカー(2・5号車)
この編成のポイント.シートの部分の床は通常の位置から1150mm高くして,一人掛けのシートを片側一列の配置とする.このシートは自由な位置で固定することができる.編成へのサービス電源となる発電機は,防音に適した,このドームカーに置く.
③コンパートメント(3・4号車)
旅行中のリビングルームとなる部屋で,中央通路のため座席は向かい合わせとする.室内にはBGM用のハイファイスピーカーを配置してゆったりとくつろげる部屋としている.

フルムーン・スペシャル 編成図
ドームカーのインテリア

3)車両のデザイン
①エクステリアデザイン
このフルムーン・スペシャルの外観の特徴も,ドームカーと展望車であろう.ドームカーはイラストのように,なるべくガラス面積を多くして開放感を与えたい.また展望車は,戦前の”あじあ”号のように密閉タイプの局面構成のものとした.本来客車というのは,必ず編成の片方に動力車がつくわけであり,このように特殊な用途の列車であれば,列車全体のイメージのために,動力車も含めて固定編成が望まれるところである.事実,鉄道黄金時代のアメリカの流線形特急列車では頭としっぽがはっきりしているし,日本の特急列車も終点の駅では,三角線を利用して方向転換していたと聞いている.運用のこともあるのでそれがかなわないとしても,そのデザインには,機関車の次位についてもそれほど不自然ではなく,後尾となった時はかっこいいスタイリングとなるようにまとめるべきであろう.この案では曲面ガラスを使うことによって解決したつもりであるが…….カラーリングは九州の赤と落ち着きを表わすレッドブラウンを用いてアレンジした.
②インテリアデザイン
イラストに示したのは,ドームカーの1セクションである.このように,屋根までガラスの車両はカーテンと荷物棚が設けられないのが欠点であるが,この列車の場合はこの部屋にずっと座っていなければならないということはないので,この二つはつけなくても問題はないだろう.その他の各個室,オブザベーション(展望室)については,落ち着いたゆとりのあるデザインとしたい.

JR九州 フルムーン・スペシャル・トレイン 平面図

「フリーランス・プロダクツ」からのメッセージ

我々の意図を極力詳細にお伝えすべく,説明のほかにイラストや平面図を加えてみましたが,おわかりいただけましたでしょうか.まったくの絵空事は空想画であってデザインではありません.デザインとは,企画を実現化するものであり,このようなアドバンスデザインといえども,その対象の位置付けと最低限の技術的検討は必要でしょう.そういった意味で,ここに描いたプランからリアリティを感じていただければ幸いです.またアドバンスな発想は,日常の小さな出来事に対しても,常に問題意識をもち,様々な世の中の動きを知るところから始まります.とかく,過去の,あるいは慣習に支配されがちなイメージがかつての国鉄には感じられました.
 国鉄からJRへーーそこにはさまざまなことがあったでしょうが,一人のファンとして,これを契機にサービス産業へと大きく展開していくことを願っています.その中で車両の果たす役割は商品としてであり,重要なものですが,それ以上にそれを扱う人々のサービスマインドが必要とされるように思われます.サービスとは,設備ではなく,つまるところは人なのです(航空機もスチュワーデスがいるから良いのです).美しい車両,きれいな室内,そして快適な移動,この基本的なことも,人がしなければあり得ません.さらなる発展を期待します.
JRグループの社長様へ

敬具