〜『鉄道ファン』1987年6月号から〜

拝啓 JRグループの社長さま

JR西日本 在来線スーパー・エクスプレス

1)開発コンセプト
TGVの考え方を導入した,在来線用の新しい特急電車.北陸新幹線を狭軌で建設することが前提だが,建設の終った所から新幹線に乗り入れて,時間短縮の効果を即座に発揮できるほか,乗り換えの手間も省くことができる.当面は在来線の一部区間のみを最高速度160km/hで走行し,関西地区と北陸地方の新しい動脈とする.将来,新しい高速用の軌道ができた所から,最高速度を200km/h に上げる.北陸新幹線のルートや方式については,今後,議論の対象となろうが,この在来線スーパーエクスプレスを利用すると,全区間の開通まで完成された設備を遊ばせることも少ない.なお,上野ー高崎間は,現在の上越新幹線をデュアルゲージに改造することで対処した方が,全体の工事費用を抑えることとなろう.

JR西日本 在来線スーパー・エクスプレス

2)車両の構想
車両限界は,当然在来線のままとするが,車内設備は100系をより熟成したものとする.シートピッチは普通車を1040mmとし,グリーン車は1200mmに広げ,座席配置も2人+1人とする.残念ながらダブルデッカーは居住性と在来線での高速化のために採用は難しく,ハイデッカーにとどめる.電気方式はDC1500V・AC20000V・AC25000Vの3電源とする.制御方式は,在来線内での高加減速度と新幹線内での高速性能を両立するために,VVVF制御とし誘導電動機を使用する.台車は,やはり在来線内の曲線通過速度を上げるため,振り子・舵取り機構を導入する.積雪地区の走行が主体となるため,万全の雪対策を施す.また重心を下げるため,381系同様クーラーは床下搭載とする.
 Tc車
在来線用のATSと新幹線用のATCを搭載する制御車.出入台には,自動販売機と列車電話を設置する.
 M1車
主電動機駆動用のVVVFインバータ(M1,M2用)を搭載する電動車,屋根上には新幹線を走行するためのパンタグラフを載せ,M2車には屋根上で特高圧母線を渡す.
 M2車
変圧器・整流器・交直流切替器など,M1・M2共用の特高圧機器とサービス用のインバータを搭載する.屋根上には在来線用のパンタグラフを搭載する.
 Tsh車
編成の中央に連結された,ハイデッキのグリーン車.オープン室とハイデッキコンパートメントの組み合わせがポイント.乗務員室・車販準備室のほか,Tc車同様自動販売機・列車電話を設ける.
 このほか,将来M1・M2ユニットの増結を条件に,TD車の導入も考えられる.

スーパー・エクスプレス 編成図
スーパー・エクスプレスのコンパートメント特別室

3)車両のデザイン
①エクステリアデザイン
この車両も200km/hをねらった高速車両である.したがって,十分に空力的に洗練されたものとしたい.こういった場合,頭を悩ますのは前頭部分にどれだけのスペースを与えることができるか,ということである.スペースをたくさん取れれば,ダイナミックな流線形も可能である.しかしそのスペースは有償搭載スペースではなく,極端に言えばデッドスペースなのである.新会社が直面する経済性の問題を考えた場合,定員も決しておろそかにはできないであろうし,その兼ね合いの中でスマートなイメージを追わなければならない.この車両の前頭形状は,一枚ガラスの正面の窓を上下に拡大したような,スラントシェイプであり,高速性と経済性をまとめあげたものである.また,北陸地帯は名うての豪雪地帯でもあることと空力特性の向上をねらって,機器はボディマウントとした.カラーリングは白と,西日本会社のコーポレートカラーであるブルーを用いている.
②インテリアデザイン
従来の車両の室内は,とにかく汚いー少なくともきれいでないーというのがおおかたの意見である.JRになって,乗客に変わったな,良くなったな,と思わせるためには,とにかくきれいな車内とすることであろう.そのためには清掃も強化しなければならないだろうし,車内設備品の考えかたも改めなければならないだろう.見受けるところ,今まではとかく丈夫で長持ちのものばかりで構成されていた.イニシャルコストが高くても,長くもてばよかったのである.きれいな車内をめざすとすれば,それではだめであろう.どんな手入れしても,たくさんの人が使っているのだから,長い間使っているうちに汚くなってくるし,デザインそのものも古臭くなってくる.ライフサイクルコストの考えかた(車両の20年~30年なりの一生の間に,どの時期に,どれだけのお金をかけて,どれだけ稼ぐかを考えるもの)を導入して,次々に更新していくことも必要ではないだろうか.
 さて,このイラストはグリーン車(私自身はこの呼び名は嫌いである.国際性を考えると一等車もしくは特別車とすべきであろう.)のコンパートメント部分を描いたものである.全体の色調を抑え,シックにまとめて逆に豪華さを醸すようにしている.

JR西日本 在来線スーパー・エクスプレス 平面図